帽子の国の天使
  北の・・・北の・・・ノルウェーのオスローという街の一軒の帽子屋さんの話です。
  北極に近く、夏は白夜というのがあって夜が更けても何時までも昼のように明るくて暗い夜が来ない。

  そのオスローの街のはずれに小さな帽子屋がある、若い頃から一生懸命に帽子を作ってきたおじぃさんとおばぁさんとそしてマルタと言う少女が三人が貧しいが仲良く暮らしています。
  12月にはおじいさんはクリスマスと新年の為に、オスロの街から近くの町、そして遠い町や村へ作りためた帽子を売りにいきます。寒さを防ぐ帽子や春の為のおしゃれな帽子等を持って小さな旅へ出るのです。
  その帽子作りを何時もそばでマルタは見ていました。
  時折、おじいさんが
『マルタ・・ひとつでもいいから帽子が出来るといいね』
と老眼鏡をずらしながら微笑みながら言うのでした。
  マルタはおじぃさんの手が魔法の様に見えました。知らず間にどんどんと一枚の布が帽子の形になっていく・・・
  どんな人がこの帽子をかぶるのだろうかと出来上がっていく帽子を眺めてばかりいました。

  短い秋が終わり、北の国には早い冬が来ます。どんよりと曇った空からは白い雪がちらほらと降るかと思うといつの間にか量も増え、街のあちこちがだんだんと白くなっていきます。
  そんなある日、おじぃさんが
『マルタ・・・おじぃさんは旅に行ってくるよ。また、帰ったらいろんな町の話をしてあげるからね。おばぁさんと仲良く待って居ておくれ。それとひとつでもいいから帽子ができるといいね・・・おじぃさんは楽しみにしているよ』
と言い雪の降るオスローの街を後にして旅へ出かけていきました。

  残されたマルタは
『おばぁさん、おじぃさん何処まで行くのかしら・・・』
『うん、遠くの町まで行くらしい・・・あたしの行ったことも無い町をあっちこっち旅してね、帽子を売って、お金をもらったり、チーズやハムや干し肉やいろんなものと交換して来るんだよ、マルタ』 『お前は・・マルタおじぃさんが好きだね?』
『うん』
 おばぁさんは窓から外を見ながら・・・
『今年は雪が多そうだ、おじぃさんも楽な旅だといいが・・・』
  おじぃさんが旅に出た後もお客さんが時々来ました、棚に飾ってあるおじぃさんの帽子が少しずつ無くなっていきます。
  雪は日増しに多くなり、オスローの街もすっかり白い街になりました。
  雲が流れ夜空は濃紺の空が時たま顔を出します、その時は澄み切った空には無数の星たちがきらきらと輝き、特に北斗七星は羅針盤のように星たちの中でもいっそう輝いて見えます。きっと旅人たちはこの星の位置を見ながら旅をしたのでしょう・・・。

  おじぃさんが旅へ出て10日程した夕暮れの事、ドアーにバタンと音がするのでマルタはドアを開けてみると一羽の鳥が羽をばたばたとさせて苦しそうにしていました。マルタはその傷ついた鳥を両手でそっと抱き上げ、家の中に連れて行きました。
『おばぁさん・・・鳥が・・・』
『マルタ、家に帰るのに疲れてしまったのかもね。その毛糸の入った箱をベットにしてあげなさい。暖かくしてあげなさい。でも、ずいぶん弱っているね・・・』
『うん』 『助けてあげたいね、おばぁさん』
『うん、しばらくそばにいてあげなさい。きっと遠くから飛んできたんだよ、誰かが待っているんだよ』
『うんうん、きっとそうだね。おばあさんしばらくそばにいてもいいね』
『うん、そうしてあげなさい』
  マルタは毛糸の箱のベットを薪ストーブのそばへ、でも何故か元気もなさそうだ。心配そうに覗き込むマルタの瞳は少しずつ潤んでいる。
  どこを打ったのだろう・・・ 
  こんな雪降る風の日に・・・        
  どんなに疲れているんだろう・・・ 
  どこまで飛んで行くんだったんだろう。

  部屋を照らすランプの灯が揺れている、ドアと窓はしっかりと閉まっているのに・・・きっと隙間風が入ってくるのだろう曇っていた空から青い光がマルタの居るところへ差し込んできた。月が出てきたのだ。
一瞬の雲間から澄み切った透明な青い光が雪明りに映えて街外れの一軒の帽子屋へ差し込んでいる。
  マルタは毛糸のベットを覗き込んでみるとさっきまで苦しそうに息をしていた鳥は動きもせず・・・じっとしている。
『おばぁーさん、おばぁーさん・・・・』
奥からおばぁさんが飛んできて箱の中ほどをのぞいて・・・ 
『マルタ・・・だめだったんだね。可哀想にね』
『明日、教会の見える場所の雪の下を掘って埋めてあげなさい』
  マルタは力なく
『うん』
としか言えなかった。
  おばぁさんが奥へ行ってからどの位時が経っただろう・・・
  マルタはじっと涙をこらえていたが一滴落ちてから溢れるように流れ落ちた・・・
  木の床に小さな涙の湖が出来るほど・・・
  ただ悲しくて・・・
  ただ哀しくて・・・

  泣きつかれて、ふと目を覚ましたマルタは自分の前に出来た涙の小さな湖に月が映っている・・・
  青い透明な小さな涙で出来た湖だ。
  そして、耳を澄ますとその月が、マルタ・マルタと呼んでいる・・・
  その声にマルタは湖をのぞくと月が微笑んでいる。
『お月様・・・どうしてこの鳥さんは死んでしまったの?』
『この鳥はね、一生懸命に飛んで疲れてしまったんだよ。悲しいけどね、君が暖かくしてくれた。きっとね今頃は君の暖かい心を抱いて翼を広げて天国で無限の空を気持ちよさそうに飛んでいるよ』 『ありがとう、マルタ、私からお礼を言うよ。あの鳥さんはたまに羽根を振ってくれていたんだよ』 『マルタのお父さんもお母さんも病気で亡くなったんだね』
『うん・・・』
『亡くなった人は星になってね、みんなを見守ってくれているんだよ。マルタのパパもママもじっとマルタのことをどこかの空の彼方から見守ってくれているよ』
  涙の湖のお月さんは白く輝き微笑みながらマルタに語り続けていく・・・
  小さな部屋は青い月の光を浴びて、マルタとお月様が小さな湖を通して話している。
  おじぃさんの作った帽子の数々も月光と雪明りに照らされて・・・美しく輝いている。

  お月様が
『マルタ、私は世界を照らしながら回っている。そしていろんな国を見て回っている。今夜は世界のいろんな国の話と帽子の話をしてあげるよ』
『え・・・ほんと?』
『うん、南の方にインドという国がある 何時も暑くてね、で布を巻いてターバンという帽子をかぶっているよ。メキシコという国はつばの広い帽子をかぶってね。この国の人はみんな陽気でね、楽しい人達だよ。またアラビヤと言う国も宗教的な帽子をかぶっている。中国という古い国もちょこっと頭に載せる帽子をかぶっている。アラスカというここより寒い国はトナカイの皮で作った帽子で耳まで隠れるようにね』
日本という国もあまり帽子をかぶらないけど少しづつかぶるようになったよ、昔ねこの国に原子爆弾という怖ろしい爆弾も落とされてねたくさんの人が亡くなったよ。
『世界の人がみんな帽子をかぶっているよ、高貴な人は鳥の羽根をつけたりね・・・』
『世界には素敵な帽子が一杯あるよ、何時かマルタも大きくなったら世界中の国に旅して見るのかも・・・』 
『うん、そうなんだ。帽子って世界中でかぶっているんだね』
『サンタクロースも赤い帽子をかぶって、さっきトナカイ達の橇に乗って西の空を急いで
飛んでいったよ』
  お月様は
『マルタのところにも来るかもね?』
  マルタも
『うん、来るといい・・・別にプレゼント頼んでないけど。おじぃさんが無事に帰ってきてくれるが一番のプレゼント、そしておじぃさんの帽子がみんなに喜ばれるのが一番嬉しい。サンタさんにも会ってみたい』
  お月さんは優しく
『うんうん』
とうなずいている。
『マルタ、そろそろ行くね・・・ 哀しんでいる子がまだいるんだよ、もう、悲しくないよね』
『うん、大丈夫』 『明日の朝、この鳥さんのお墓を作ってあげます』
  月は微笑を残しながら湖から消えていきました。
  後には窓の外に美しい月の光がオスローの街を照らしています。
  マルタは亡くなった小鳥をおじいさんの布の箱から綺麗な布を探して包んであげました。

  翌日の朝、教会の塔が見える裏庭の雪をどかし、土を掘って鳥の墓を作ってあげました。
  墓標には「お月様のおともだち」と書き、
『寂しくないね』とつぶやきました』
  家に入ろうとした時、何処からか一匹の犬が裏庭に入ってきてじっとマルタを見つめています、マルタがおいでと呼ぶとその犬はそばに来てマルタに頭をこすり付けて甘えます。
  耳の大きな可愛い犬。
  マルタは家に入れて、朝ごはんの残っていたスープを出すと美味しそうに食べている。
  おばぁさんが来て
『マルタ、鳥は可哀想だったね。あれ、今度は犬・・・お前は生き物が好きだね。この犬可愛いね。迷ってきたんだね・・・沢山食べ物あげなさい』
『うん』
  おばぁさんは犬の頭をなぜながら
『私もね、マルタぐらいの時はよく、犬やねこや他の動物たちと仲良くしたよ』『生き物はね、みんな神様からの使いなんだよ』
『うん』
  マルタはすっかりなついた犬の頭をなぜながら・・・
『そうだ この可愛い犬さんに帽子を作ろう!!? 耳のところへ穴を開けてあげて!!』
『ね、おばあさん。』
『そうだね うまく出来るといいね』
といいながら奥へと消えていく。
  マルタは不思議だった、どんどん頭の中で帽子が出来ていく。
  毛糸の入っている箱から赤い毛糸を取り出すと、どうだろう・・・どんどんと手が動いていく。
  一生懸命に作ったものを犬の頭に合わせて
『あれ、ちょっと小さい・・・』
ひとり言を言いながら夢中で手を動かしていく。
  時折、犬が頭を振って大きな耳を揺らしながらまたマルタのひざの上に頭を乗せて気持ちよさそうに眠っていく。
  マルタは必死だった。
  そして知らずうちに作っている喜びが心の中からも湧き上がってきた
『きつと暖かいね』
  と呟きながら一生懸命に編みこんでいく。
  どの位時が経っただろう・・・
  西の空は夕焼けも薄くなり、そろそろ暗闇が迫る頃、マルタの帽子は完成した。
  赤い毛糸の帽子。
  マルタがはじめて作った帽子。
  それを犬にかぶせてみた。耳のところに穴が開いている。
  赤い帽子の中に可愛い顔がある。
  耳が綺麗に穴から出てとても可愛い。
  犬も嬉しいのだろう 何度も何度もマルタへ顔をこすりにくる。
  マルタはその犬をじっと抱きしめて
『ありがとう。ありがとう』
とほほずりする。
  犬は嬉しそうにマルタの顔を舐め・・・何度も何度も嬉しそうにマルタに絡み付いてくる。
  おばぁさんも来て
『マルタ・・・ マルタ・・・いい帽子が出来たね』
外の雪が激しく降ってきたようだ。
  突然、犬が吠えてドアのところへ、マルタがドアのところへ行きドアを開けると犬が出て行って一目散に走っていってしまった。
『あれー まだ、名前も付けていないのに・・・ こんな大雪の中に・・・おおおおおーい、帰っておいで!!』
  その声は雪が降る夕闇のオスローの街の中に木霊のように響いているだけだった。
  クリスマスイヴという日。
  陽も沈み、窓から外を眺めていると紺碧の夜空に月が出て・・・粉雪が降る中、遠くの空から一筋の星が流れてきた。
  その光跡は銀の線のように延びて空への道のようでもある。
  その最後の星星の散らばった欠片が教会の鐘にあたり、教会の鐘が鳴り響く。
  メリー・クリスマス。
  それと同時に街々の家の明かりが灯り、雪降る街に暖かい暖炉が出来たようだ。
  教会からはかすかに子供たちの唄う賛美歌が聞こえてくる。
  マルタもその声に引き寄せられて、教会へ行ってみると沢山のキャンドルが赤々と灯り、ほほを染めた少年たちが澄んだ声で歌っている・・・

  どこかでマルタを呼ぶ声がする
『マルター マルター』
  だんだんとその声は大きくなって
『あっ おじぃさん』 『おじぃさーーーん』
二人は抱きつくようにして街外れの家に帰って行った。
  食事を終えたおじぃさんは大きな揺り椅子に座り眠そうなマルタをひざに抱きながら・・・
『マルタ、今回の旅でね、不思議なことがあった。オスローの街に帰ろうとして、あまりの雪多さでわしは道に迷ってしまった。』
  思い出しながら・・・
『どうしていいか途方にくれていると、何処からか一匹の犬が現れてな、わしのコートをひっぱのじゃ・・・』
  マルタはもう久しぶりのおじぃさんのひざの温もりの上でスヤスヤと眠りに入ってしまっている。
『で、引っ張られるままついてきたら、オスローの教会の前にいたんだよ』
  囁くように、また、懐かしく思い出すように・・・
『その犬が 赤い毛糸で出来た帽子をかぶっていた。耳のところに穴が開いていてね
なんとも可愛い帽子じゃった』 『不思議な日だ、クリスマスなんだろう。』 『今夜は世界が一番平和な夜かもな、おばぁさん。あの帽子をかぶった犬は可愛いいぬじゃったな!!』

  空は星たちが瞬き、澄み渡る中に月がゆっくりと動いていく。
  その前を6頭のトナカイの橇に乗ってサンタクロースが大声で
『お月さん。まだまだプレゼントを待っている子供たちがいるんです・・・道を明るく照らしてくださいね』
そして
『メリークリスマス』
と言って 下降していった。


2006-12-23   Pepe_le_moco

 

編集者より
此のお話にイラストを描いてくださる方はいませんか、絵本を作りたいと思っています。